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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)627号 判決 1958年7月25日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人原秀雄の上告理由第一点について。

所論の公告は、その文言において法文の脱落等稍明確を欠く嫌いはあるが、その公告文中には「土地改良区設立に伴う本審査の申請に付き」との記載があり、かつ縦覧書類及び縦覧期間の記載もあつて、土地改良法八条四項の公告と認め得るから、これを無効と解すべきではないとの原判示は正当であつて、所論は採るを得ない。

同第二点について。

法八条四項に依れば、書類の縦覧期間を二十日以上と定められているにかかわらず、本件においては満十日程度に過ぎなかつたことは、原審の認定するところであるが、法が相当期間縦覧に供すべきことを命じたのは、利害関係人に書類を閲覧させ異議申立の機会を与えるためであるから、縦覧の機会を全然与えないか又はこれと同視すべき場合は格別、右のように満十日間縦覧可能の期間が存した以上、これを以て被上告人知事の認可を無効ならしむる程重大な手続上の瑕疵となすべきではないと解した原判決の判断は正当であつて、所論は採るを得ない。

同第三点について。

原判決は、被上告人改良区の事業実施の経過に照し、被上告人知事のなした認可を取消すことにより、多数の農地、多数の人について生じた各種の法律関係及び事実状態を一挙に覆滅し去ることは、著しく公共の福祉に反するものといわなければならないと判断して、行政事件特例法十一条一項を適用したのであつて、右判示はこれを首肯することができる。なお同条三項の規定は、同条一項によつて請求を棄却した場合に常に損害賠償の請求を認容しなければならないという趣旨でないことは明らかであつて、その請求を排斥した原判決には所論の如き違法はない。所論はいずれも採るを得ない。

同第四点について。

所論設立認可の公告に「板野町」とあるは「坂野町」の誤記と認めた原判決の判示も首肯することができるから所論は探用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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